1010.「UQ HOLDER!」感想(承)
1009.「UQ HOLDER!」感想(起)の続き。
水島御大の全盛期の作品に「一球さん」というのがある。「ドカベン」の成功に乗って「野球狂の詩(勇気シリーズ)」と同時期にアニメ化もされたが、他の2作品がヒットしたのとウラハラに振るわず、半年で打ち切りになった。しかし週刊少年サンデー連載の方は単行本で14巻、勇気シリーズの約2倍の長さとそこそこヒットした。そしてなにより、私にとってはこの「一球さん」が水島新司作品のマイベストなのである。
主人公・真田一球は山で育った真田忍者の末裔、野球はまったく知らないが身体能力抜群、男前で天然、悪く言えば空気が読めない、少年マンガの主人公としてはキャラが立ち過ぎないわゆる「変なヤツ」である。
昨今の水島マンガでは絶滅したヒロインの存在もあり、しかも結構(当時の少年マンガレベルではあるが)萌え要素もあった。一球に振り回されて乱れるチームワーク、一球のモテ度に嫉妬して酒に溺れるエース(高校生)、一球に惚れる敵校の女スパイ(男装)、甲子園出場決定後に監督と衝突したレギュラーをクビにして一球と素人集団での甲子園出場、等々ドラマ性抜群で、水島の演出力が最も発揮された傑作、と言ってよい。
そしてもう一つの隠し要素、少年サンデーでの前作「男どアホウ甲子園」との関係・・・一球の高校「巨人学園」の野球部代理監督は「男どアホウ」で主人公・藤村甲子園の相方を務めたキャッチャーの岩風五郎。一球の養父は藤村らの高校時代のチームメイト、丹波左文字。甲子園での対戦相手は藤村らの母校「南波高校」、擁するバッテリーは藤村の双子の弟たち(前作ではまだ小学生だった)。いかにもファンのツボ突きまくりの設定である。
しかし、この「一球さん」を読み始めた当時、私は前作「男どアホウ甲子園」のことをよく知らなかった。
そのため、岩風五郎のことを野球部のエース・大友が評したように「平凡な体育教師・・を装った一癖ある人物」としか思わなかったし、丹波左文字が一球の様子を遠くから見守る姿でカメオ出演したときも特に感動も無く、一球とは似つかぬコワモテの父親だなあくらいにしか思わなかった。
おそらくは「男どアホウ」を知るファンも当初は岩風のことを同名異人と考えていたのではないか。水島マンガではよくあることだし(岩田鉄五郎も数人存在する)、「男どアホウ」終了から「一球さん」開始までわずか一ヶ月、一方作中時間は10余年が経過しており、これでは読者側の切り替えがおっつかない。演出上も当初は前作との繋がりを明かさず、それが岩風の「口癖(はいなあんさん)」や「高校時代の思い出話(チームメイトに松葉杖をつきながらプレーした男がいた」等で徐々に明るみに出るという知ってる人はニヤニヤ、知らない人もさして違和感が無いという職人芸である。
しかしそんな中、前作の主人公、藤村甲子園はなかなか姿を現さない。タイガースのエースに君臨しているわけでもない。「死んだのか?」と思わせるほどの放置っぷりである。藤村が登場するのは終盤も終盤、一球の対戦相手である弟達がピンチになる場面でバックネット裏に登場し、無言の激を送る。このとき、藤村甲子園のその後のプロ成績についても少し語られる。・・最高にシビレた。この時点では私も「男どアホウ」に興味を持ち、概ね読んでいたのだ。だからこそ感動した。藤村の登場をここまで引っ張った(そして最小限にとどめた)のは単なる焦らしの美学ではなく、新規の読者が「男どアホウ」を読破した頃合を見計らっていたのではないか。前作を知らなくても十分に評価できる作品の隠し味、気づかなくとも美味しく、しかし噛めば噛むほど味が出るのである。
さて「UQ HOLDER!」だが。
すでに(序)にて冒頭3ページはいきなり前作との繋がりを語りすぎ、ってなこと書いた。
しかしよく考えてみると、この演出にはもう一つの意図がある可能性に気づく。2ページ目、1~2コマでは「一時期を共にした仲間たちとの決別」を示しており(実際に3-Aクラスメイトが健在のうちに「旅に出た」わけでもあるまい)、3コマ目では「過去の自分との決別」を意味している。・・自我を持たないチャチャゼロはエヴァの自分自身の投影である。そして3ページ目、新たな仲間との出会い、始まり・・この3ページは前作との繋がりを示すと共に、前作との決別をも意味している・・とすれば、やはり冒頭に不可欠なシーンとなる。
作者の意図以上に、臨機応変がマンガの真髄なのだからこの先どう転ぶかはわからない。主人公が途中で変わったマンガだってある。とりあえず、刀太の背中が割れて中からネギくんが出てくるのだけはご免こうむりたい。それさえなければ、Tシャツの文字ネタがイマイチなのは許そう。
水島御大の全盛期の作品に「一球さん」というのがある。「ドカベン」の成功に乗って「野球狂の詩(勇気シリーズ)」と同時期にアニメ化もされたが、他の2作品がヒットしたのとウラハラに振るわず、半年で打ち切りになった。しかし週刊少年サンデー連載の方は単行本で14巻、勇気シリーズの約2倍の長さとそこそこヒットした。そしてなにより、私にとってはこの「一球さん」が水島新司作品のマイベストなのである。
主人公・真田一球は山で育った真田忍者の末裔、野球はまったく知らないが身体能力抜群、男前で天然、悪く言えば空気が読めない、少年マンガの主人公としてはキャラが立ち過ぎないわゆる「変なヤツ」である。
昨今の水島マンガでは絶滅したヒロインの存在もあり、しかも結構(当時の少年マンガレベルではあるが)萌え要素もあった。一球に振り回されて乱れるチームワーク、一球のモテ度に嫉妬して酒に溺れるエース(高校生)、一球に惚れる敵校の女スパイ(男装)、甲子園出場決定後に監督と衝突したレギュラーをクビにして一球と素人集団での甲子園出場、等々ドラマ性抜群で、水島の演出力が最も発揮された傑作、と言ってよい。
そしてもう一つの隠し要素、少年サンデーでの前作「男どアホウ甲子園」との関係・・・一球の高校「巨人学園」の野球部代理監督は「男どアホウ」で主人公・藤村甲子園の相方を務めたキャッチャーの岩風五郎。一球の養父は藤村らの高校時代のチームメイト、丹波左文字。甲子園での対戦相手は藤村らの母校「南波高校」、擁するバッテリーは藤村の双子の弟たち(前作ではまだ小学生だった)。いかにもファンのツボ突きまくりの設定である。
しかし、この「一球さん」を読み始めた当時、私は前作「男どアホウ甲子園」のことをよく知らなかった。
そのため、岩風五郎のことを野球部のエース・大友が評したように「平凡な体育教師・・を装った一癖ある人物」としか思わなかったし、丹波左文字が一球の様子を遠くから見守る姿でカメオ出演したときも特に感動も無く、一球とは似つかぬコワモテの父親だなあくらいにしか思わなかった。
おそらくは「男どアホウ」を知るファンも当初は岩風のことを同名異人と考えていたのではないか。水島マンガではよくあることだし(岩田鉄五郎も数人存在する)、「男どアホウ」終了から「一球さん」開始までわずか一ヶ月、一方作中時間は10余年が経過しており、これでは読者側の切り替えがおっつかない。演出上も当初は前作との繋がりを明かさず、それが岩風の「口癖(はいなあんさん)」や「高校時代の思い出話(チームメイトに松葉杖をつきながらプレーした男がいた」等で徐々に明るみに出るという知ってる人はニヤニヤ、知らない人もさして違和感が無いという職人芸である。
しかしそんな中、前作の主人公、藤村甲子園はなかなか姿を現さない。タイガースのエースに君臨しているわけでもない。「死んだのか?」と思わせるほどの放置っぷりである。藤村が登場するのは終盤も終盤、一球の対戦相手である弟達がピンチになる場面でバックネット裏に登場し、無言の激を送る。このとき、藤村甲子園のその後のプロ成績についても少し語られる。・・最高にシビレた。この時点では私も「男どアホウ」に興味を持ち、概ね読んでいたのだ。だからこそ感動した。藤村の登場をここまで引っ張った(そして最小限にとどめた)のは単なる焦らしの美学ではなく、新規の読者が「男どアホウ」を読破した頃合を見計らっていたのではないか。前作を知らなくても十分に評価できる作品の隠し味、気づかなくとも美味しく、しかし噛めば噛むほど味が出るのである。
さて「UQ HOLDER!」だが。
すでに(序)にて冒頭3ページはいきなり前作との繋がりを語りすぎ、ってなこと書いた。
しかしよく考えてみると、この演出にはもう一つの意図がある可能性に気づく。2ページ目、1~2コマでは「一時期を共にした仲間たちとの決別」を示しており(実際に3-Aクラスメイトが健在のうちに「旅に出た」わけでもあるまい)、3コマ目では「過去の自分との決別」を意味している。・・自我を持たないチャチャゼロはエヴァの自分自身の投影である。そして3ページ目、新たな仲間との出会い、始まり・・この3ページは前作との繋がりを示すと共に、前作との決別をも意味している・・とすれば、やはり冒頭に不可欠なシーンとなる。
作者の意図以上に、臨機応変がマンガの真髄なのだからこの先どう転ぶかはわからない。主人公が途中で変わったマンガだってある。とりあえず、刀太の背中が割れて中からネギくんが出てくるのだけはご免こうむりたい。それさえなければ、Tシャツの文字ネタがイマイチなのは許そう。
テーマ:UQ HOLDER! - ジャンル:アニメ・コミック
コメント
コメントの投稿
トラックバック
http://785778.blog42.fc2.com/tb.php/1106-e68ac387
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)